優遊キャンプ

今日は四十九日。

心の整理はつかない、いまだ実感がわいていないのかもしれない。
でもこの日を機に。自分の中で区切りをつけたいと思う。


生まれてから42年間。

今ある私の人生に大きな影響を及ぼした貴方へ。

届くことのないこの手記を贈る。

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拝啓、クソ親父殿。

貴方は私にとって、最低の父親で最高の父親です。

高校時代、静岡の高校で剣道を習い、全国大会でトップまで登りつめた栄光。
警察官時代、東京北千住勤務で犯人を追い詰め捕まえて表彰された栄光。
中途採用の小さな小さな工務店で営業担当し、年間数億の取引を生む企業に成長させ
勤務年数10年で取締役まで昇進した栄光。
人との縁を誰よりも大事にしその縁から生まれた人脈で法廷闘争に勝利した栄光。

何度も聴かされた自慢話。

誰にも負けたくないから誰にも見下されたくないから。
正義感が強く、理不尽な存在は威圧し、弱い仲間のためには走りまわり。
だから公私ともに、誰からも尊敬され、たくさんの人に愛されていた貴方。


だけど。
それは貴方と貴方に救われた方々のお話で。
私からみた貴方は違う。

家庭では私に対して暴力を常に振るい、母とは離婚の話ばかり。
「女みたいだ、情けない、どうしてお前は・・・」と殴る蹴る引きずり倒す。

泣き虫で小中学生はスポーツも勉強もダメだった私。
貴方からは充分にイラつかせる対象だったんでしょうね。

何をやっても何を提案してもダメ出しされて。
高校卒業したあたりから、貴方と会話が途切れたのも仕方ありません。
大学入学してからバイト先に入りびたり、貴方とは顔すら合わせなくなりました。

そして大学二年の時、貴方は休日出勤中に病に倒れました。
長時間の手術を終え命を繋いだ貴方。

あの時から私の知る、貴方はいなくなりました。

「オレはお前らに迷惑かけてまで生きるつもりはない」
と豪語してた貴方は、リハビリも効果なく。

22年という無慈悲に過ぎる時間の中で
周りから同情され、厭きられ、嘲笑され。

貴方が自慢していた数々の栄光も。
貴方を慕って愛してくれたたくさんの人も。
貴方の自覚ないままに、いや分からないままに。
22年という月日が、すべて消し去っていました。

最後に貴方を看取ったのは、私と妻と母のみです。
それが貴方が活きた46年間と生きた22年間の最後でした。

私には貴方との記憶はわずかしかありません。

だから就職先は目的もなく決め、貴方が知らない人と結婚を決め、
子供が生まれ家庭を築きました。

私の知る貴方であれば、きっと言うだろう。
「そんなのは許さない」

だけど貴方の思うようにはならない。
貴方が作った家庭とは違う形に。

私の妻と子供達と見てください。
妻は可愛くて優しくて子供好きで、誰からも愛される最高の妻です。
子供達は頑固だけど真っ直ぐで皆に自慢できる子達です。

私が築いた家庭を見てください。

貴方が描いた理想の家族とは違う！
貴方よりずっとずっと幸せです。

貴方が亡くなるその日まで。

そう反発してきました。


そして葬儀の日、母と妹から聞きました。

お腹にいた時、障害がある子かもしれないと堕胎手術を勧めた医師に貴方は
「どうか、障害があってもいい、この子を産ませてください」と懇願したこと。

私に暴力をふるった日の夜は必ず。
寝入った私の頭を撫でながら、「こんな父親でスマン」と泣いていたこと。

勉強もスポーツもできなかった私の将来を心配し
自分経営の工務店を立ち上げ、私に会社を継がせようと母に夢を語っていたこと。

「あいつの育て方を間違った」と後悔し、
大学卒業したときに親子関係をやり直すと妹に語っていたこと。

貴方が私に教えなかった話は
貴方が亡くなってから私に届きました。

私は何に対して反発していたのでしょうか？
貴方は私に何を伝えたかったのでしょうか？
私が築いた今の家庭をあの時の貴方は否定したでしょうか？

・・・きっと否定しなかった。
そこには私の知らない貴方がいた。

貴方の娘、梅子は私のような欠陥品を愛し、
さらに変わり果てた貴方を父と慕ってくれました。
貴方の孫リョウは中学バスケで活躍し、高校バスケでも親が震えるほどの成長を果たしました。
貴方の孫ユズはとても優しく頭がいい。女の子を大事にする貴方にはたまらなく可愛いでしょう？
貴方の孫トーヤは貴方にそっくりでワガママで甘えん坊の気難し屋さんです。

どうか梅子を褒めてあげてください。
孫たちの頭を撫ででください。

お前の嫁はお前にはもったいないと。
子供達はお前に似ないで良かったなと。

笑いながら、どうか私と晩酌を交わしてください。

どうかどうか、父となった私をいつものようにダメ出ししてください。



拝啓、クソ親父殿。

私は貴方の予想を超える父となったでしょう？

返事は「参った、もうオレを超えたな」
そう敗北宣言をしていると決めつけます。

だって今の今までなにも私に伝えず、勝手に逝ってしまったんですから。

私から貴方にできる最後の反抗です。

そして。

私は貴方のようで貴方ではない父親となります。
天国で歯を食いしばって見ていてください。


さようなら。
また、逢う日まで。